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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(オ)1276号 判決 1978年7月17日

主文

理由

上告代理人加藤義則、同村瀬鎮雄、同岡島章の上告理由について

原判決は、被上告人の本件土地についての使用関係が使用貸借であるか賃貸借であるかを判断するに当り、(一)被上告人が上告人の亡父訴外橋元幸吉から本件土地を借り受けて同土地上に本件建物を建築する際住宅金融公庫(以下「公庫」という。)から融資を受けた借用金について、幸吉が連帯保証人となり、かつ、本件建物につき公庫が抵当権を取得することを承諾して貸地期間二〇年の記載がある乙第一号証(「地主承諾書」と題する書面)を作成した点と、(二)右書面に賃料一か月三〇〇円の記載がある点から、(一)の点について、幸吉は、公庫に対してのみならず被上告人に対しても、抵当権が消滅するまで本件土地上に本件建物が存続すること、したがつて、そのために本件土地に対する借地権が存続することを承認する趣旨であつたとし、さらに(二)の点について、幸吉は、被上告人が幸吉の遠い親族であつて、幸吉が社長をしている株式会社橋元組(のちにその商号は橋元運輸株式会社と変更された。)に長年勤務する子飼いの従業員であることから、被上告人が忠実に勤務する限り現実に賃料を徴収する意図はなく、したがつて、将来賃料支払期が到来するときは、その都度支払義務を免除する旨の黙示の意思表示をするつもりであつたのであり、右乙第一号証中の賃料額の記載は、これを公庫に差入れるに際し、その額を適当に記入することを被上告人にまかせたものと推測されるとしたうえ、本件土地使用関係をもつて、期間二〇年、賃料月額三〇〇円の賃貸借契約であると認定している。

しかしながら、原審が確定した事実関係によれば、右乙第一号証は、被上告人が公庫から建築資金の貸付を受けるにつき、公庫に提出すべき必要書類として作成された書面であつて、右の存続期間及び賃料額の記載も、当事者間に話合いがなされないまま、被上告人が幸吉の意を受けて適当に記載したにすぎないというのであり、しかも、被上告人は本件土地を本件建物の敷地として継続して使用しているにもかかわらず、幸吉に対して土地使用の対価としての賃料を全く支払つていなかつたとの事情が窺われるのであるから、このような諸事情を考慮するときは、乙第一号証が公庫に差入れられたことにより、直ちに幸吉と被上告人間に右書面に記載された期間を二〇年とし、賃料を一か月につき三〇〇円とする土地賃貸借契約が成立したものとした原審の認定はにわかに首肯し難いのみならず、本件記録を精査するも、本件土地の賃料について、幸吉が被上告人に対して支払期ごとに支払義務免除の黙示の意思表示をするつもりであつたとの原審認定の事実関係を肯認するに足りるような資料は、これを見出し難い。

してみると、叙上のような証拠関係のもとで本件土地の貸借関係を賃貸借と認定した原判決には、すでにこの点で証拠の評価を誤り、証拠に基づかないで賃料支払免除の事実関係を認定した違法があるものというべく、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、本件土地の貸借関係の性質等について、さらに審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。

(裁判長裁判官 吉田 豊 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 本林 譲 裁判官 栗本一夫)

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